家賃の滞納や入居者とのトラブルは、どの大家にも起こり得ます。この記事では、大家がやってはいけない「自力救済」、滞納への早めの対応、そしてトラブルに備える方法の一つである定期借家契約の仕組みと注意点を解説します。
大家は必ずしも「強い立場」ではない
賃貸経営では、大家は社会的に強い立場と見られることがあります。しかし実際には、大家の側が対応に苦しむ場面も少なくありません。
その代表が家賃の滞納です。滞納が続けば、大家はローンの返済や固定費の支払いに影響が出ることもあります。それでも、大家が自分の判断で部屋の荷物を運び出したり、鍵を替えて入れなくしたりする「自力救済」は認められていません。滞納への対応は、法的な手続きに沿って進める必要があります。
こうしたトラブルに備える方法の一つとして知っておきたいのが、定期借家契約です。
「自力救済」は絶対にしてはいけない
自力救済とは、裁判などの法的な手続きを経ずに、自分の力で権利を実現しようとすることです。賃貸の場面でいえば、家賃を払わない入居者の家財を部屋から出してしまう、鍵を勝手に替えて入れないようにする、といった行為がこれにあたります。
気持ちとしては「家賃を払わないのだから出ていってほしい」と思うのも無理はありません。しかし、これを大家が自分で行うと、逆に大家の側が法的な責任を問われるおそれがあります。滞納への対応は、管理会社や弁護士などの専門家と相談しながら、督促や調停、訴訟といった正式な手続きで進めるしかありません。
滞納は「早く動く」ほど傷が浅い
滞納対応で大切なのは、判断を先送りしないことです。
戦(SEN)代表講師の名取は、過去に家賃6万円の部屋で滞納が続き、結果として100万円以上を回収できなかった経験があります。その入居者は家賃保証会社に加入しておらず、管理会社の担当者が「もう少しで仕事が見つかると言っているので待ちましょう」と言うのに同意して様子を見るうちに、滞納額が膨らみ、やがて連絡もつかなくなりました。
この失敗から、名取は「3か月以上の滞納は、すぐに法的な手続きへ」という基準を持つようになりました。また、自分の物件では家賃保証会社への加入を必須にしています。様子を見ている間にも滞納額は積み上がっていくため、早めに動くことが損失を小さくする一番の方法です。
判断の基準はオーナー自身が持つ
この経験で名取が痛感したのは、「判断を管理会社に任せきりにしてはいけない」ということです。管理会社の担当者は、入居者との関係を悪くしたくない、手間のかかる手続きを避けたいといった事情から、どうしても様子見に傾きがちです。
もちろん、管理会社の協力は欠かせません。ただ、「何か月滞納したら法的手続きに進むか」「保証会社への加入を入居の条件にするか」といった基準は、オーナー自身が決めて、あらかじめ管理会社と共有しておくことが大切です。基準が決まっていれば、いざというときに迷わず動けます。
滞納分を払ってもらって、やっとスタートライン
滞納していた入居者が、まとまった金額を一度に支払ってくれることもあります。ただし、それで問題が解決したわけではありません。
名取の物件でも、月額20万円ほどの店舗のテナントが100万円以上を滞納し、その後一括で支払ってくれたことがありました。しかし、その支払いの前に、管理会社へ多くの要望を伝えてきたそうです。滞納分を支払うのは本来の約束を守っただけで、ようやくスタートラインに戻ったにすぎません。遅れたことへのおわびもないまま条件を求められても、応じる理由はありません。
賃貸借は、大家と入居者の信頼関係の上に成り立つ契約です。滞納が起きたときこそ、条件や今後の契約のあり方を冷静に見直すきっかけにしたいところです。定期借家契約は、そうした見直しを契約の仕組みとして組み込める方法の一つです。
定期借家契約とは
定期借家契約は、正式には「定期建物賃貸借契約」といいます。主な特徴は次のとおりです。
- 契約期間があらかじめ決められている
- 契約の更新がなく、期間が満了すると契約は終了する
- 双方が合意すれば、再契約をすることはできる
普通借家契約との違い
一般的な賃貸契約である普通借家契約では、契約期間が満了しても、借主が希望すれば基本的に契約が更新されます。大家側から契約を終わらせるには正当な理由が必要とされ、簡単ではありません。
一方の定期借家契約は、期間満了で契約が終わることが前提です。そのため、
- トラブルが続く入居者との契約を、期間満了の時点で見直しやすい
- 将来の建て替えや売却などの計画を立てやすい
といった点が、大家側のメリットになります。
再契約ができる点も大切です。きちんと家賃を払い、ルールを守ってくれる入居者とは再契約を結んで長く住んでもらい、問題が続く入居者とは期間満了で契約を終える。入居者との関係を、契約の節目ごとに見直せるのが定期借家契約の特徴です。
あまり使われていない理由
メリットがあるにもかかわらず、定期借家契約は賃貸の現場であまり広く使われていません。理由としては、次のような点が挙げられます。
- 契約前に書面で説明するなど、普通借家契約より手続きが多い
- 管理会社にとって事務の手間が増える
- 入居者によっては更新できない契約を敬遠することがある
裏を返せば、管理会社が対応に慣れているかどうかで、導入のしやすさが変わります。定期借家契約を使いたい場合は、管理会社に取り扱いの経験があるかを最初に確認しておくとよいでしょう。
導入するときの注意点
定期借家契約を使う場合は、次の点に注意しておきたいところです。
- 契約は書面(または法律で認められた電磁的な方法)で結ぶ必要がある
- 契約締結の前に、更新がなく期間満了で終了することを、契約書とは別の書面で説明する必要がある
- 契約期間が1年以上の場合、期間満了の1年前から6か月前までの間に、契約が終了することを入居者に通知する必要がある
- 手続きに不備があると、普通借家契約として扱われる可能性がある
- 入居者に敬遠されて空室が長引かないよう、家賃や再契約の方針も含めて検討する
特に、終了の通知を忘れると、期間満了だけを理由に退去を求めにくくなることがあります。契約時だけでなく、満了前のスケジュール管理までを管理会社と決めておくと安心です。
契約の作り方や手続きの詳細は、管理会社や弁護士などの専門家に確認しながら進めてください。
家賃保証会社と組み合わせて備える
滞納への備えは、定期借家契約だけではありません。もう一つの柱が、家賃保証会社の活用です。
家賃保証会社に加入してもらうと、入居者が家賃を滞納した場合に、保証会社が一定の範囲で家賃を立て替えてくれます。名取の失敗例では、入居者が保証会社に加入していなかったため、滞納分をそのまま大家が背負うことになりました。現在、名取の物件では保証会社への加入を入居の必須条件にしています。
- 家賃保証会社:滞納が起きたときの家賃の穴を埋める
- 定期借家契約:契約の節目で、入居者との関係を見直せるようにする
- 社内の基準:何か月の滞納で法的手続きに進むかを決めておく
この3つを組み合わせておくと、滞納が起きても慌てずに対応しやすくなります。保証の範囲や条件は保証会社によって異なるため、管理会社と相談して選びましょう。
既存の入居者はどうするか
すでに普通借家契約で住んでいる入居者の契約を、大家の都合だけで定期借家契約に切り替えることはできません。定期借家契約は、主に新しく入居者を募集するときに検討するものと考えておきましょう。
物件を購入するときも、前のオーナーの時代からの入居者がどのような契約で住んでいるか、家賃保証会社に加入しているかを確認しておくことが大切です。滞納リスクの高い契約をそのまま引き継ぐと、購入後の運営で苦労することがあります。
まとめ
- 家賃滞納があっても、大家による自力救済は認められておらず、法的手続きに沿った対応が必要
- 滞納は様子見をせず、早めに専門家と相談して動くほど損失を小さくできる
- 定期借家契約は契約期間があらかじめ決まっており、更新がなく期間満了で終了する
- 普通借家契約より、大家側が契約を見直しやすく、将来の計画も立てやすい
- 導入には書面での説明や終了の通知など、法律で定められた手続きが必要
- 手続きの詳細は、管理会社や弁護士などの専門家と確認しながら進める
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