物件を買い続けるために、利回り以上に大切になるのが決算書です。この記事では、銀行が決算書のどこを見ているのか、赤字や節税のしすぎがなぜ融資の妨げになるのか、減価償却や売上の規模まで含めて、決算書を育てる考え方を解説します。
決算書は融資相談の「名刺」
法人で不動産投資を進めていくと、銀行に融資を相談するたびに決算書を提出することになります。決算書は、その法人がどのように事業を営んでいるかを示す、いわば名刺のようなものです。
戦(SEN)でも、セミナーなどで繰り返し「決算書を大切に」とお伝えしていますが、なかなか実感を持ってもらいにくいテーマでもあります。
銀行は物件だけでなく「財務」に融資する
多くの初心者が勘違いしやすいのが、「利回りの高い物件を持ち込めば、銀行は喜んで融資してくれる」という考え方です。もちろん物件のスペックは重視されます。しかし、融資を受け続けられるかどうかを大きく左右するのは、その法人や個人の財務内容です。
融資の審査は、物件の審査と人物(借り手)の審査の両輪で行われます。そのうえで、借り手側の財務として見られやすいのが、次のような点です。
- 自己資本比率:資産に対して、借入ではない自分のお金がどのくらいあるか
- 債務償還年数:今の利益やキャッシュフローで、借入を何年で返せるか
- 過去の融資の健全性:これまでの借入をきちんと返済できているか
財務が健全であれば、多少条件が劣る物件でも前向きに検討してもらえる可能性が高まります。ここ数年は、立地・築年数・構造が同じでも利回りが下がってきており、物件のスペックだけで勝負するのは難しくなっています。だからこそ、財務の見え方が以前にも増して大切になっています。
「説明できる赤字」なら問題ないのか
決算書が赤字になったとき、次のように考える方がいます。
- 減価償却による赤字なので、実態としては問題ない
- 一時的な費用による赤字なので、説明すれば理解してもらえる
これらの説明は、理屈としては筋が通っていますし、正しい面もあります。実際に、内容を説明すれば理解を示してくれる銀行担当者もいるでしょう。
銀行は「積極的な理由」があるときに融資する
ただ、ここで考えておきたいのが銀行担当者の目線です。銀行の融資は、「ぎりぎり大丈夫そうだから貸す」というよりも、「この案件はぜひ進めたい」と思える積極的な理由があるときに前に進みやすいものです。
決算書が赤字だと、たとえ説明がつく内容でも、担当者が稟議を書くときの説明の手間が増えます。
- 審査部に対して、赤字の理由を一つずつ説明する必要がある
- 「無理に進めなくてもよいのでは」と、担当者が消極的になる余地が生まれる
銀行担当者を少しでも迷わせる要素は、できるだけ減らしておくほうが、融資の相談は進めやすくなります。
節税のしすぎで融資が止まることもある
利益が出れば、当然、税金がかかります。そのため、経費を積み増して利益を圧縮しようと考える方は少なくありません。節税そのものは合法的な行為ですが、やりすぎると別の問題が起きます。
銀行は審査のときに決算書を確認し、特に本業でしっかり利益が出ているか(営業利益)をよく見ています。利益がほぼゼロの決算書は、融資を断られる大きな理由になり得ます。節税に力を入れすぎて利益を薄くした結果、次の融資が取れなくなった、というのは本末転倒です。
納税は、物件を買い続けるための「参加料」と考えてみてください。売上があり、利益があり、きちんと納税している。この積み重ねが法人の信用になります。
減価償却とデッドクロスにも注意する
不動産投資の経費の中で、特に大切なのが減価償却費です。建物や設備の購入費は一度に経費にできず、耐用年数に応じて毎年少しずつ経費にしていきます。
たとえば1億円の物件のうち建物が5,000万円で、償却期間が20年なら、単純計算で毎年250万円が減価償却費になります(土地は償却できません)。実際にお金が出ていかない経費なので、利益と税金を抑える効果があります。
ただし、減価償却の期間が先に終わり、融資の返済期間が残っていると、経費が減って利益が大きく見える一方で、手元のお金は増えない「デッドクロス」と呼ばれる状態になります。納税額が一気に増え、最悪の場合は黒字倒産につながるおそれもあります。決算書を考えるときは、目先の1期だけでなく、数年先の減価償却と返済のバランスも見ておくことが大切です。
売上の「規模」も見られている
もう一つの視点が、売上の規模です。銀行は返済能力を見る前に、「この会社と取引するに値するか」を判断します。
たとえば家賃3万円の区分マンションを1室だけ持っている法人の年間売上は36万円です。融資を使って一棟物件を持つ法人とは、売上の規模が大きく違います。銀行には審査の社内基準があり、売上規模が小さいと、担当者がそもそも稟議を上げにくいこともあります。利回りという「率」だけでなく、規模という視点も持って物件を選ぶことが、物件を買い続けるうえでの土台になります。
不動産賃貸業は「自己資本比率」が低くなりやすい
不動産賃貸業は、ほかの業種に比べて借入が多くなりやすい事業です。フルローンや9割融資で物件を買い進めていれば、自己資本比率や債務償還年数が、一般的に「良好」とされる数字から離れてしまうのはある意味で当然です。
この数字を一足飛びに改善するのは簡単ではありません。だからこそ、決算書をどう整理し、銀行にどう伝えるかという「見せ方」の工夫が大切になります。実際の財務内容が同じでも、勘定科目の整理の仕方や、物件ごとの収支・資産の状況を分かりやすく示す資料の有無で、銀行担当者の受け止め方は変わります。
具体的な方法は法人の状況によって異なるため、不動産に詳しい税理士や、融資の実務に通じた人に相談しながら進めることをおすすめします。
現金買いなら安全、とは限らない
融資を使わずに現金で物件を買えば、借金のリスクはありません。ただし、借金のリスクを抑えただけで、すべてのリスクがなくなるわけではありません。
現金買いの一番のリスクは、手元の現金が減ることです。不動産を持つことは事業を営むのと同じで、急な修繕が必要になったときや、空室が続いたときに、手元に現金がなければ対応できません。企業の倒産も、売上が落ちたときより、手元の現金が尽きたときに起きると言われます。
また、現金買いではレバレッジを使わない分、売上の規模が大きくなりにくく、次の融資の相談で不利になることもあります。融資を活用して規模を育てながら、手元の現金も厚く保つ。このバランスが、決算書と資金繰りの両面で大切です。
法人は「作る」より「育てる」
資産管理法人は、作ること自体は難しくありません。大切なのは、作った後にどう育てるかです。
売上があり、利益があり、きちんと納税している。その実績を毎期の決算書に積み重ねていくことで、法人の信用は少しずつ高まっていきます。1期の決算書だけで評価が決まるわけではないからこそ、最初の決算から「銀行に見せる書類」であることを意識しておくことが、数年後の融資の選択肢を広げます。
決算書を意識した事業運営のポイント
決算書を整えるためには、日々の事業運営から意識しておくことが大切です。
- 物件の収支を把握し、黒字で運営できる計画を立てる
- 大きな費用が出る時期を見通し、決算への影響をあらかじめ考えておく
- 減価償却と返済のバランスを確認し、デッドクロスの時期を把握しておく
- 決算の内容や会計処理については、税理士などの専門家と早めに相談する
なお、会計や税務の具体的な判断は、事業の状況によって変わります。個別のケースについては、必ず専門家に確認してください。
まとめ
- 法人で不動産投資をするなら、決算書は融資相談の名刺のようなもの
- 銀行は物件だけでなく、自己資本比率や債務償還年数などの財務を見ている
- 赤字は説明できる場合もあるが、銀行担当者を迷わせる要素になりうる
- 節税のしすぎで利益が薄くなると、次の融資が止まることがある
- 減価償却とデッドクロス、売上の規模も意識して決算書を育てる
- 会計・税務の具体的な判断は、専門家と相談しながら進める
レバレッジ型不動産投資を体系的に学びたい方へ


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