不動産投資を始めようとすると、必ずといってよいほど耳にするのが「出口戦略」という言葉です。この記事では、出口戦略の基本と、出口を考えすぎて動けなくなる落とし穴、売却で利益を確定させるときの考え方、実際の売却で起きやすいトラブルまでを解説します。
出口戦略とは「物件をどう手放すか」の計画
出口戦略とは、購入した収益物件を最終的にどうするかの計画のことです。収益不動産の出口は、大きく分けると次の2つしかありません。
- 売却:物件を売って、売却代金からローンの残りを返し、手元に利益を残す
- 持ちきり:売らずに持ち続ける。最終的には建物の取り壊しや、相続で次の世代に引き継ぐことも含む
不動産投資の利益は、毎月の家賃収入(インカムゲイン)と、売却益(キャピタルゲイン)の2つから生まれます。購入時にどれだけ自己資金を出したか、運営中にどれだけキャッシュフローが出たか、そして出口でどれだけ手元に残ったか。この3つを合計して、初めてその物件の投資の成否が分かります。
出口を気にしすぎて「買えない」のは本末転倒
出口戦略は大切です。ただし、考えすぎるのもよくありません。
戦(SEN)代表講師の名取のもとには、「出口が心配で物件を買えない」という相談が寄せられることがあります。しかし、物件を購入する時点で、10年先の融資の状況や不動産市況、そのエリアがどうなっているかを正確に見通せる人はいません。
不動産投資の成否は、購入した時点でほぼ決まるといわれます。適正な価格で買えているか、キャッシュフローが出る融資条件になっているか。ここが押さえられていれば、出口の選択肢は自然と広がります。逆に、出口ばかりを気にして購入の判断を先送りしているうちに、時間だけが過ぎてしまうのはもったいないことです。
まったく出口が想定できない物件であれば、対策を考えておく必要はあります。しかし、出口戦略は「ポイントを押さえて、深く考えすぎない」くらいがちょうどよいと考えています。
売却のしやすさは「次の買主の融資」で決まる
出口を考えるうえで押さえておきたいポイントの一つが、売却のしやすさは、次の買主が融資を受けられるかどうかに大きく左右されるということです。
収益物件の買主の多くは、銀行の融資を使って購入します。そのため、売却する時点で銀行がその物件に融資しやすいかどうかが、売れる価格やスピードに直結します。
- 建物の構造と築年数:融資期間は、建物の残りの耐用年数を基準にされることが多い
- 立地と賃貸需要:入居者がつき続けるエリアかどうか
- 物件の状態:修繕が行き届いているか、大きな修繕が近いうちに必要ではないか
コンプライアンスが厳しくなった今の銀行は、借り手が破綻するような融資は避ける方向にあります。将来、収益不動産への融資が大きく緩くなると期待するのは難しいかもしれません。だからこそ、「次の買主が融資を受けやすい物件か」という視点を、購入時から持っておくことが大切です。
売却したときに利益が確定する
不動産投資をしている方の多くは、毎月の家賃収入を目的にしています。生活費も携帯代金も水道光熱費も毎月払いです。毎月の定期収入があることは、不動産投資の大きな魅力です。
一方で、物件ごとの利益が確定するのは、売却したときです。物件によっては、売却益が数百万円、数千万円になることもあります。
ただし、キャピタルゲインは市況によるところが大きく、狙って取れるものではありません。売却益を当てにして買うのではなく、家賃収入で無理なく回る物件を買い、市況が良いときに売却の選択肢を持てるようにしておく。これが、出口戦略の現実的な考え方です。
長期譲渡まで待つべきかは目標次第
個人で所有している物件を売却するときは、所有期間によって税率が変わります。一般的に、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば「長期譲渡」、5年以下なら「短期譲渡」となり、税率は長期で約20%、短期で約39%とされています。
この差は大きいので、「長期譲渡になるまで待ってから売ろう」と考える方は多いです。ただ、名取はこれが必ずしも正解とは限らないと考えています。
- 長期譲渡を狙って待っている間に市場が崩れ、売却価格が下がってしまうことがある
- 売却して物件を入れ替えたいなど、次にやることが決まっているなら、待つ時間そのものがロスになる
- 待っている間にも年齢は重なり、融資を受けられる期間や目標達成までの時間に影響する
また、名取自身が個人所有の物件を売却したときには、売却の翌年に申告する税額が大きく増えました。個人の売却では、譲渡所得の税金に加えて、住民税や社会保険料などに影響が出る場合もあります。売却を決める前に、税理士に手取り額を試算してもらうことをおすすめします。
売却の現場では交渉が続く
実際の売却では、価格交渉や条件交渉が何度も続くことがあります。名取が地方の1億円クラスのRC物件を売却したときの例を紹介します。
その物件は10年以上所有し、ローンの残りも半分ほどに減っていました。売りに出しても反響は少なく、価格を下げたり、依頼する業者を増やしたりしながら時間をかけて売却活動を続けたところ、ある日2件の反響がまとめて入りました。
買主は宅建業者で、融資特約なしでの契約を希望しました。ほかにも検討客がいることを伝えていたため、条件を強めてきたようです。そのうえで、
- 最初に300万円の指値(値引き)が入り、間をとって150万円の値引きに応じた
- 現地調査のあと「修繕が必要」として、さらに300万円の値引きを求められた
- 契約日が近づくと、契約後に退去が出た場合の原状回復費用を売主が持つよう求められた
中古の収益物件は、現況有姿(今の状態のまま)で引き渡すのが基本です。入退去が起きるのも当然です。それでも条件の要求は続き、契約当日の1時間前に延期の連絡が入ることまでありました。
売買契約書は事前に専門家に確認してもらう
この取引で名取が助けられたのが、事前に弁護士に売買契約書のチェックを依頼していたことです。細かな条件を次々に求めてくる買主は、引き渡しの後にも何か言ってくるかもしれません。そこで弁護士の助言を受け、契約不適合責任(引き渡した物件が契約の内容と違ったときの売主の責任)の範囲について、「故意に告知しなかった場合を除き、売主は責任を負わない」という趣旨の書き方に整えました。
わずかな言葉の違いが、売却後のトラブルを防ぐことにつながります。金額の大きい売却ほど、契約書の内容は専門家に確認してもらうと安心です。
「持ちきり」を選ぶなら運営の体制を整える
売却しないで持ち続ける「持ちきり」も、立派な出口戦略です。ローンの返済が進めば、毎月の手残りは増えていきます。完済した物件は、家賃収入のほとんどが手元に残る資産になります。
持ちきりを選ぶときに考えておきたいのが、長く運営を続けるための体制です。管理会社に物件の管理や入居募集、修繕の手配を任せれば、大家の仕事は、収支や入居状況の確認と、お金を払うかどうかの判断が中心になります。
ただ、部屋数が増えると、管理会社とのやりとりだけでも手が回らなくなることがあります。名取は、100室くらいの規模になれば、管理会社への依頼や連絡をパートの方に任せ、大家は判断だけに集中するやり方もありだと考えています。持ち続けるなら、建物の大規模修繕の時期と費用も、あらかじめ見込んでおくことが大切です。
出口を見据えて、今できる準備
出口戦略を考えすぎる必要はありませんが、日々の運営の中で準備しておけることはあります。
- 修繕の記録や入居状況、家賃の推移をきちんと残しておく(買主や銀行への説明資料になる)
- 満室に近い状態を保ち、物件の収益力を落とさない
- 残債と、売却したときの手取りの目安を定期的に把握しておく
- 信頼できる業者や専門家とのつながりを作っておく
売却するか、持ち続けるか。その判断を、数字をもとに落ち着いて下せる状態にしておくことが、出口戦略の一番の準備です。
まとめ
- 出口戦略とは物件をどう手放すかの計画で、出口は売却と持ちきりの2つ
- 出口を気にしすぎて買えないのは本末転倒。成否は購入時にほぼ決まる
- 売却のしやすさは、次の買主が融資を受けられるかどうかで決まる
- 利益が確定するのは売却したとき。売却益は当てにせず、家賃で回る物件を選ぶ
- 長期譲渡まで待つべきかは、市況と自分の目標で判断する。税金は税理士に試算してもらう
- 売買契約書は事前に専門家に確認してもらうと、売却後のトラブルを防ぎやすい
レバレッジ型不動産投資を体系的に学びたい方へ


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